2025.09.05
犬の大動脈狭窄症
<原因>
大動脈狭窄症(Aortic Stenosis)は、心臓の左心室から体全体に血液を送り出す大動脈が狭くなる先天的な心疾患です。この疾患は、狭窄によって血液の流れが制限され、左心室に過度な負担をかけ、最終的には心不全を引き起こす可能性があります。大動脈狭窄症は通常、出生時に発症し、症状は生後数ヶ月から数年以内に現れることがあります。
主な原因とリスク因子には以下が含まれます:
- 遺伝的要因 大動脈狭窄症は、遺伝的要因が強く影響する疾患です。特定の犬種に多く見られ、特にボクサー、ゴールデン・レトリバー、サモエド、ダックスフントなどが高リスク群に分類されます。これらの犬種では、心臓の発育に異常が生じ、大動脈が狭くなることがあります。
- 大動脈弁の異常 大動脈狭窄症は、通常、大動脈弁の発達異常によって引き起こされます。大動脈弁が不完全に閉じたり、弁の形状が変わることにより、血液がスムーズに流れなくなります。これにより、心臓に過剰な負担がかかり、狭窄症が進行する可能性があります。
- 左心室肥大 大動脈の狭窄が進行すると、左心室は血液を効率的に送るために過度に働きます。その結果、左心室が肥大し、最終的には心臓の機能が低下することがあります。
- 環境要因 大動脈狭窄症の原因には環境要因も関与する場合があります。たとえば、妊娠中に母犬が感染症にかかったり、特定の薬剤や毒素に曝露された場合、胎児の発育に影響を及ぼすことがあります。
- 外的ストレスや負荷 高血圧などの外的要因が長期間続くことで、心臓に負担がかかり、狭窄症が悪化することがあります。また、過度の運動や激しいストレスが心臓に悪影響を与えることも考えられます。
<症状>

大動脈狭窄症の症状は、狭窄の程度や進行具合によって異なりますが、一般的には以下のような症状が見られます:
- 運動耐性の低下 初期段階では、犬は運動中に息切れや疲れやすさを感じることがあります。軽度の症例では、運動を控えた際に症状が現れますが、重度になると日常的な活動にも影響を与えます。
- 頻脈や不整脈 大動脈狭窄症が進行すると、心拍数が増加し、心臓の不整脈が発生することがあります。これは血液の流れが不規則になることによるものです。
- 昏倒や失神 狭窄が深刻になると、心臓が効率的に血液を送り出せなくなり、犬は急に倒れることがあります。この昏倒は、突然の血圧の低下によって引き起こされます。
- 心雑音 獣医師が聴診器で心臓を診察する際、心雑音が聞こえることがあります。これは、血液が狭窄した部位を通過する際に乱流が生じるためです。
- 呼吸困難や咳 症状が進行すると、呼吸困難や咳が見られることがあります。これらは、心臓の機能低下による肺水腫などが原因です。
- 体重減少や食欲不振 重症の犬では、心臓の機能が低下することによって、体重減少や食欲不振が見られることがあります。
<診断>

大動脈狭窄症の診断は、主に以下の方法を使用して行われます:
- 聴診 獣医師は聴診器を使用して、心臓の音を確認します。心雑音が聞こえる場合、さらなる検査が必要となります。
- 超音波検査(心エコー) 心エコーは、大動脈の狭窄具合や心臓の機能を評価するための最も重要な検査です。この検査により、狭窄の程度や左心室の肥大を詳しく調べることができます。
- X線検査 胸部X線を用いて、心臓の大きさや肺の状態を確認します。心臓が肥大している場合や肺に水分が溜まっている場合、進行した心不全を示唆します。
- ECG(心電図) 心電図によって、不整脈や心拍の異常を確認することができます。
<治療法>

大動脈狭窄症の治療は、狭窄の程度や症状によって異なります。以下の方法が考慮されます:
- 薬物療法 初期段階では、薬物療法が行われることがあります。利尿剤やβ遮断薬など、心臓の負担を軽減する薬が使用されることがあります。
- 外科的手術 狭窄が重度の場合、外科的に治療することが必要です。大動脈弁の拡張手術やバルーン拡張手術が行われることがあります。これにより、血液の流れを改善し、心臓の負担を軽減することができます。
- カテーテル治療 バルーン拡張術やステント挿入による治療も有効な方法として用いられます。カテーテルを用いて狭窄部位を拡張し、血液の流れを改善します。
<予後>
大動脈狭窄症の予後は、発見時の狭窄の程度や治療方法によって異なります。軽度な場合は長期間無症状で過ごすことができることもありますが、重度の場合は早期に治療を行わないと、心不全に進行し、命に関わることもあります。
早期に診断し、適切な治療を受けることで、犬の生活の質を大きく改善することが可能です。
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PROFILE

稲野辺悠(夜の獣医師ゆってぃー)
港区動物救急医療センター芝アニマルクリニック院長
日本獣医救急集中治療学会所属